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邪魔な後輩
新入社員の加藤は、社内でも評判の「期待の新人」だった。
仕事は丁寧で、先輩たちへの気配りも完璧。入社半年で、すでに大きなプロジェクトを任されている。
でも、なぜか私の仕事だけは、いつも邪魔をするのだ。
今朝も、私のデスクに置かれたコーヒーを派手にこぼした。
「すみません!」
謝りながら、慌てて拭く彼。幸い書類は無事だったが、スマホだけが水没して動かなくなった。修理に出すと、三日はかかるという。
午後、大事なプレゼンの前に、車のキーが見当たらなくなった。
探していると、加藤が「これですか?」と、自分のロッカーから取り出してきた。
「間違えて持っていってしまって」
悪びれる様子もない。結局、プレゼンには電車で向かうことになった。
そして昨日のこと。
私が週末の出張用にまとめた資料の一部が、デスクから消えていた。問い詰めると、加藤はあっさりと言った。
「捨てました」
「赤い印がついていたので、不要かと思って」
でも、私はそんな印をつけた覚えはなかった。資料は予備があったから良かったものの、彼の行動はどう考えても理解できない。
もう限界だった。
明日にでも人事部に彼の異動を申し出ようと決めた、その時だった。
会社の休憩室のテレビに、速報が流れた。
「本日午前、都内のタクシーが爆発。乗客一名が死亡」
画面に映る車のナンバーを見て、血の気が引いた。
私が今朝、乗ろうとしていたタクシーだった。
スマホが壊れていなければ、配車アプリで呼んでいたはずの車。加藤がコーヒーをこぼさなければ、今頃あの車に乗っていたのは、私だったかもしれない。
そして、加藤が抜き取った「赤い印」の書類。
あれは、出張先のホテルの予約確認書だった。週末、そのホテルに泊まる予定だった。
その夜、警察の記者会見があった。
「爆破予告の暗号解読に成功しました。赤い印で示された複数の標的を、事前に保護することができました」
翌朝、出社すると、私のデスクに一枚のメモが置かれていた。
加藤の字だった。
『ごめんなさい。でも、あなたを守るには、これしか方法がなかった』
彼は僕を、生かしたかったのだ。